肺HOT・センター
ATAMI ART GRANT 2023 / ATAMI ART RESIDENCEにおける、河口湖のArtists Run Residence「6okken」による展示・イベント・交流拠点プロジェクト。熱海の旧療養施設「噏滊館」の蒸気吸入と肺の比喩を軸に、温泉・通信・代謝を重ねた拠点が尾崎ランドビル1Fに開設され、waxogawaはそのなかでオランダの作家Rudi van Deldenを招聘するキュレーションを担当した。
Concept
ATAMI ART GRANT 2023は、テーマ「巡 − Voyage ATAMI」のもと2023年11月18日〜12月17日に静岡県熱海市内40か所で開催された、53組・100名以上が参加する大規模アートイベント。「肺HOT・センター」は、そのATAMI ART RESIDENCEの枠で、河口湖を拠点とするアーティスト・ラン・レジデンス「6okken」が尾崎ランドビル1F(熱海市咲見町2-2)に提案した展示・イベント・コミュニケーション拠点である。
コンセプトの出発点は、かつて熱海に存在した療養施設「噏滊館(きゅうきかん)」。温泉の蒸気を吸入することで療養を行う、日本初の療養センターとされる施設で、その「蒸気を肺から吸い込み、熱気が身体内部へ広がる」イメージが企画全体の比喩になっている。ここでの「肺」は身体器官というより、身体の内外をつなぐ器官、蒸気として熱海の温泉・熱気・歴史を取り込む器官、人と人・場所と場所のエネルギーを交換する呼吸の場、参加者同士の熱量交換としての代謝の器官、そして熱海から世界をつなぐ回線/通信装置として、重ねて読まれている。
この比喩を補強するのが、「噏滊館」と並べて語られる「日本初の電話線」という熱海の歴史である。温泉の蒸気を肺に取り込むことを身体的な通信、電話線がつながることを社会的・技術的な通信として重ね、展示空間を開くこと自体を、人・場所・エネルギーを巡らせる通信として構成する企画意図がうかがえる。
6okkenは、富士山麓・河口湖にある6棟の家からなるArtists Run Residences。自分の表現を生み出そうとする人々が河口湖を生活の場としてゆるやかに集まり、共同の未来を考え対話し続ける場として運営されている。この6okkenが熱海に「肺HOT・センター」を開くことは、山梨と熱海のエネルギーを行き来させる、一時的な呼吸器官を熱海につくる試みとして位置づけられている。
運営体制は、Participant:6okken member、Installer:mooney/Munehiro OHTA、Curator:Aoi Kaida、Architecture:DODI、Curator:waxogawa、EKU2 Presenter:Miina Yamaguchi、Visual Direction:Akari Sakamoto、Photo:ichiphoto/shibahara107という分担で構成されており、単一作家の展示ではなく、インストール・建築・キュレーション・プレゼンテーション・ヴィジュアルディレクションを分担した複合プロジェクトである。
会期中、「肺HOT・センター」では複数のイベントが展開された。展示・パフォーマンス「えく2〜熱海編」(11月22日〜26日、尾崎ランドビル1F・駅前インフォメーションセンター他、今宿未悠・中島りか・花形槙・三好彼流・山口みいな)、トークイベント(12月2日・3日、尾崎ランドビル1F、李静文・waxogawa他)、ラジオトークショー(12月6日〜10日、尾崎ランドビル1F、6okken他)、“ATAMI ART GRATIN”(11月18日・12月10日・12月17日、尾崎ランドビル1F、6okken他)が、artscapeおよびATAMI ART GRANT 2023関連の広報情報に確認できる。常設の展示空間というより、会期中に変化し続けるプラットフォーム型のプロジェクトだった。
このなかで、waxogawaは6okkenの一員としての関与に加え、オランダの作家Rudi van Deldenを招聘する展示をキュレーションした。Rudi van Delden本人のサイトにも、2023年11月18日〜12月17日のAtami Art Grant参加記録があり、“duo exhibition”として記載されている。Rudi van Deldenは independent graphic and web designer を自称し、2021〜2023年にアムステルダムのSandberg InstituutでMFA Fine Art and Designを、2014〜2018年にハーグ王立芸術アカデミーでBA Graphic Designを取得した、グラフィック・ウェブ・デザイン・ファインアートの境界を横断する実践者である。グラフィックやウェブ、インターフェースに関わるその実践は、「肺HOT・センター」の通信・回線・呼吸・熱交換というコンセプトと響き合う招聘だったと考えられる。
慶應SFC学会関連の資料の検索結果には、この展示にRudi van Deldenと田中小太郎の二者を招聘したとする記述も見られるが、本文全体を十分に確認できておらず、Instagram上のキャプション単体にはこの記載がないため、田中小太郎の参加については確度を留保した情報として扱う必要がある。Rudi本人サイトの“duo exhibition”という表記も、相手の作家名をそのページ上で明示してはいない。
「肺HOT・センター」は、熱海という土地を、温泉・療養・蒸気・通信・代謝が重なる“呼吸する拠点”として一時的に立ち上げた企画であり、waxogawaのキュレーションは、その内部でRudi van Deldenという国際的な作家を招き入れる、より小さなキュラトリアル・プロジェクトとして展開された。
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